
日本の大学に対して「市場のニーズにあった大学となるべき」との意見を耳にすることがある。社会に出て活躍するための知識・スキルを十分に育成できていない大学教育への批判の意味を込めてであろうが、大学が「市場のニーズにあわせる」ことで本当に問題が解決されるのだろうか。
法人化により経営意識が高まった国立大学・公立大学は勿論、従来から経営意識が強かった私立大学は、むしろ「市場のニーズ」に応えようとしているのではないだろうか。教育面に限定すれば、大学にとっての「市場」とは、学費を支払ってくれる学生(志願者)である。学生のニーズに応える教育を実現しようと多くの大学は日々努力している。まさに「市場のニーズに応える」ために。
社会に出て役立つ知識・スキルが大学で教育できていないとすれば、その問題は「市場のニーズにあわせざるをえない」ことに起因している面もあるのではないか。つまり「社会が必要としている教育」と、実際に「学生が集まる教育」が異なっており、この大学教育の「出口」と「入口」のミスマッチが大学教育改革の足かせとなっているのではないだろうか。
例えば「分野」のミスマッチがある。どんなに就職が良くても、学生が集まらない分野の教育を大学は維持できない。むしろ経営的には、就職先に苦労するとわかっていても、学生が集まる分野の教育を拡大する誘因が働くと考えるのが適当だろう。「先端分野ばかり教えて、基盤的な分野の教育を軽視している」という大学批判があるが、実態としては他ならぬ学生自体が「基盤的な分野」よりも「先端分野」を望んでいることもある。つまり社会のニーズは大学にとっての「市場のニーズ」ではないのである。
市場のニーズにあった大学が間違っているという訳ではない。ただ「市場のニーズにあった大学となるべき」と言うのであれば、大学にとっての「市場」を変えていくことも必要なのである。