グリーンイノベーション時代における大学・公的研究機関の知的財産戦略

我が国の成長戦略の一環に環境関連技術が据えられる可能性が高い。総合科学技術会議において示されたペーパーでは、生活・地域社会システムの転換及び新産業創出により経済と環境の両立により世界と日本の成長の原動力となるイノベーション(=グリーンイノベーション)推進の案が示されている(※1)。

この方向性が今後政策の軸足となる場合、環境・資源・エネルギー分野の研究を担う大学・公的研究機関においては、世界と日本双方への貢献が求められることになる。(1)持続的な技術イノベーションの創出、(2)研究成果の社会への還元と確実な事業化、(3)我が国の競争力強化、の3点を同時に達成するためには、これまで言い古されてきたことではあるが、研究成果を適切に知的財産権化することが欠かせない。それも国内に留まらず、海外で十分に権利取得をすることが必須である(※2)。

もちろん、学術活動がグローバルに行われている中で、あえて(3)の視点のように国境を意識することへの抵抗感が研究者に生じることは想像される。しかし、研究費の出自である納税者への責任を果たすためにも、また、我が国へ研究資金をライセンス料という形を通じて世界中から集め研究を加速化するためにも望ましいことであろう。

海外での権利取得は極めて高額の費用がかかることが課題であるが、(独)科学技術振興機構の支援制度などの活用や、出願手続や代理人費用の重点的・機動的な確保を行う体制を構築することが望まれる。

しかし、グリーンイノベーションを達成するためにはこれだけに留まらず、より積極的な行動があってもよい。望ましい知的財産活動を行うための基盤構築に、大学・公的研究機関側が積極的に行動することも広義の知的財産戦略に位置づけられる。

権利取得のコストの問題は、特許出願に関するルールのハーモナイゼーションによっても解消されうる。学術界の側から、望ましい制度への変革を求めることも望ましいと考える(※3)。

これに加えて、競争的資金において国際的な知的財産権取得のための費用枠を十分に確保するよう、資金配分機関に、ユーザーとして提言をしてみることも一案である。

権利の管理のコストの問題は、例えば、(1)パテントプールに参加することや、協力者を募りパテントプールの起ち上げを図ること、(2)ライセンシーに海外での侵害監視を委ねるような契約を締結すること、で対処できる。これらへの取組方針を定めることが望まれる。

さらに、研究成果を広く社会へ還元することを意識するのであれば、適切な研究対価が回収できる限度でのライセンス料の回収を行いつつ、オープンな特許権の利用を認めるようなパテントプールを創設することを、官民双方に求めることも方策の一つである(※4)。

グリーンイノベーション時代を迎えて、環境・資源・エネルギー分野の大学・公的研究機関は知的財産戦略を深化し、より積極的なプレーヤーとなることが望まれる。

(※1)第85回総合科学技術会議配布資料「グリーンイノベーションについて(考え方整理のたたき台)(案)」参照。

(※2)これまで、我が国の大学・研究機関は海外での知的財産権取得が必ずしも十分でないことが指摘されてきている。例えば、米国の大学との比較では、日本の大学の海外での権利取得率は低い(例えば、財団法人比較法研究センター『大学の国際連携に係る海外特許出願戦略に関する研究』(2009年)参照)。

(※3)2009年11月12日に開催されたアジア学術知財カンファレンス(主催:日本知財学会・東京大学・京都大学)では、学術界から知的財産制度に関する提言が行われた。

(※4)民間では、環境分野の特許権の無償での開放を行う、エコパテントコモンズの取り組みがすでに存在するが、これをやや更新した若干のロイヤリティを回収するモデルが一案である。

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科学・安全政策研究本部 研究員
小林 徹

2009年11月25日

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