事業仕分けと大学(2) 若手研究者「支援」のコンセンサス形成に向けて

2009年に実施された事業仕分けが各方面で波紋を呼んでいる。 近年拡大した博士課程学生やポスドクなどへの様々な支援も、その例外ではなかった。 行政刷新会議は、若手研究者支援に対して予算縮減および計画見直しとの評価を下し、「ポスドクの生活保護のようなシステムはやめるべき」という意見まで出された(※1)。
「生活保護」という認識の是非はともかく、そうした認識を有する者が少なからずいるということは、真摯に受け止める必要があろう。 これは、若手研究者を巡る様々な状況(特に、いわゆる「ポスドク問題」)を見直す良い機会だと筆者は考える。 以下では、「ポスドク問題」に関する基本的な状況を整理したい。

第1に指摘しておかねばならないのは、「ポスドク問題」の状況は学問分野によって大きく異なるという点である。 工学系に比べ、理学系(特に物理、生物など)は学生のアカデミック志向が強く、問題が顕在化している(※2)。 ポスドク支援は、現状を正しく把握した上で分野毎の対策が必要となる。
20140708154100.jpg 【出典】「我が国の博士課程修了者の進路動向調査 報告書」(科学技術政策研究所)のデータより作成。

図1 2002~2006年度博士課程修了者の進路(職種)

第2に、助教など若手アカデミック・ポストは近年ほとんど増加していないという点である。 そのため、急増したポスドクを吸収しきれず、長期間ポスドクから抜け出せない人材が存在している(※3)。 今後とも若手アカデミック・ポストが急増することは考えにくく、ノンアカデミック・ポストも含めたキャリアパス開発が喫緊の課題となっている。
20140708154151.jpg【出典】「我が国の博士課程修了者の進路動向調査 報告書」(科学技術政策研究所)

図2 博士課程修了直後にポスドクに就いた者の、現在(2008年4月)の職業

第3に「ポスドク問題」は、実はポスドクだけの問題ではなく、学生時代から始まるキャリア設計・キャリア教育全体の問題であり、「ポスドク支援」だけでは解決できないという点である。
 2007年に日本物理学会員を対象に行われたアンケート調査(※4)によると、博士課程もしくはポスドク在職中に民間企業への就職活動を行った者は全体の3割にも満たない一方で、就職活動した者の約7割は、自身の主導権を保ったまま意思決定ができているという(※5)。博士課程修了者やポスドクのキャリアは、決して閉ざされていない。最も重要なことは、学生に幅広い知識・スキルを身に付けさせながら、修士→博士→ポスドクの各段階でキャリア意識・関心を高め、アカデミック/ノンアカデミック・キャリアを含めた選択の幅を広げさせることなのである。

最後に、学生に対する適切な情報提供が不可欠であることも指摘しておきたい。学生には、ポジティブな情報だけでなく、進学の「リスク」(アカデミック・ポストの競争率や、博士課程修了後の民間企業への就職状況など)についても具体的な情報を提供することで、自身のキャリアと向き合わせることが必要である。

科学技術関係予算が聖域ではなくなった現在、裏付けの無いままに研究者支援の維持・拡大を主張しても効果は薄い。外部からの厳しい指摘に対抗するには、データによる検討・反論が不可欠である。

 各分野の研究水準を維持するには、日本全体でどの程度の研究者が必要で、毎年何人程度を新たに採用する必要があるのか。そのためにはポスドクや博士(後期)課程学生は何人くらい必要で、どの程度の支援をしなければならないのか。各分野の学会や研究コミュニティーが、こうしたことを真剣に検討・発信した上で、若手研究者のキャリアパスを具体的に提示することが、今求められているのではないだろうか。
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※1:この意見を聞いた若手研究者の中には、悔し涙を流したものもいたという。

※2:同じ分野でも、理論系/実験系で民間企業への就職状況は大きく異なることにも注意が必要である。

※3:図2にあるとおり、博士課程修了直後にポスドクに就いた者の内、修了後5年経過した者の少なくとも23%がポスドクに留まっている。分野によっては、さらに10年以上ポスドクに就いている者もいるという。

※4:「理系高学歴者のキャリア形成に関する実証的研究 -高学歴無業者問題を考える」(国立教育政策研究所)

※5:例えば、博士課程中に就職活動を行った者の内、「最終的に企業側から断られた」は27.2%であり、その他は「最終的に1社に就職した」「最終的に自分から断った」「どちらのケースもある」と回答している。

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科学・安全政策研究本部 研究員
山野 宏太郎

2010年01月04日

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