日本人研究者の国際交流の現状と課題

研究者の国際交流は減退したか?

2010年10月に発表された「国際研究交流の概況」の中で、欧米への長期派遣研究者の大幅な減少が明らかとなった(図1)。この結果は、海外留学者数の減少傾向と相まって、若者の「内向き志向」の表れとして大きな衝撃を持って受け止められているが、その解釈には疑問も多い。本稿では、日本人研究者の国際交流の現状と課題について検討したい。
20140708152702.png (出典)「国際研究交流の概況(平成20、21年度)」(文部科学省、2010年)

図1 2002~2006年度博士課程修了者の進路(職種)


    移動形態の質的変化~「国内からの派遣」から「海外での直接雇用」へ

    図1のデータは、国内の大学・公的研究機関に在籍する研究者の「派遣」に注目したデータであり、海外の研究機関に在籍している研究者は把握していないことに注意が必要である。

    海外機関に在籍する研究者の動向を把握するため、「海外在留邦人数調査統計」から「留学生、研究者、教師及びその家族」の推移を確認すると、図1で問題となった2000年代の減少傾向は全く見えないことが分かる(図2)。図2のデータは留学生や海外の日本語教師、および同居家族などを含んだ数値であるが、筆者の推定では、これらの人数を考慮したとしても、海外に在留する研究者数は基本的に増加傾向である可能性が高い。

    つまり、日本人研究者の海外移動は、「内向き志向」によって減退しているのではなく、「国内からの派遣」から「海外での直接雇用」へと質的な変化を遂げつつあると考えられる。「国内での就職が不利になる」といった要因から長期派遣研究者の減少がしばしば問題視されているが、より本質的な事実は、上記のような国際交流の質的変化とその背景要因 なのである。
    20140708153058.png(注1)職業を有しない家族(配偶者・子女等)も人数に含まれている。
    (注2)長期滞在者とは、3ヶ月以上の在留者で永住者ではない邦人を指す。
    (出典)「海外在留邦人数調査統計」(外務省)から筆者作成。

    図2 「留学生、研究者、教師及びその家族」の日本人長期滞在者数推移

     

    質的変化の何が問題か?~頭脳循環の活性化へ向けて

    「海外での直接雇用」型研究者の増加は単なる事実であり、必ずしもそれ自体が問題とは言えない。ここで問題となるのは、日本と研究上の関係が希薄な日本人研究者が増加することで、結果的に日本と海外の研究ネットワークが分断されてしまう可能性であろう。日本で教育を受け、海外へ向かった研究者が日本との関係を絶ってしまえば、日本にとっての損失であることは言うまでもない。今後は、「海外での直接雇用」型研究者が増加している事実を前提とした上で、それを積極的に活用する施策が求められる。

    今後、国際的な協力なしに科学技術の発展はあり得ず、頭脳循環(ブレインサーキュレーション)の重要性は益々高まるはずである。しかし、本稿で見たように、日本から見た頭脳循環の現状・課題は必ずしも正しく認識されているとは言えず、必要なデータも十分ではない。近年注目されている「政策のための科学 」の観点からも、一面的な経験論を廃し、正しいデータの把握と認識に基づいた施策の検討が早急に必要である。


    <参考文献>
    「国際研究交流の概況(平成20、21年度)」(文部科学省、2010年)
    「海外在留邦人数調査統計」(外務省)
    「日本語教育機関調査 海外の日本語教育の現状」(国際交流基金、2009,2006,2003,1998年)
    「『日本人の海外留学者数』について」(文部科学省、2010年)

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    科学・安全政策研究本部 研究員
    山野 宏太郎

    2011年07月25日

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